ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集第2巻「愛」(小菅優)※レコード芸術誌2013年度第51回レコード・アカデミー賞特別部門録音受賞ディスク

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ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集第2巻「愛」
小菅優 Yu Kosuge (Piano)
録音:2012年8月20日-24日 水戸芸術館コンサートホールATM
SICC 10176-7 (P)(C)2013 Sony Music Japan (国内盤)
好録音度:★★★★
参考: Tower RecordsAmazon.co.jpHMV Onlineicon
レコード芸術誌 2013年度第51回レコード・アカデミー賞 特別部門 録音 で『世界最高水準&最先端のピアノ録音』と評価を受けた受賞ディスク。第9番,第10番,第13番,第14番,第24番,第27番,第28番を収録。SACDハイブリッド盤。

ピアノは普段あまり聴かず,またなかなか好録音と思えるものに出会わないため,ベートーヴェンだし,そんなに良いなら聴いてみようと思い入手しました。

結論から言うと,オーディオ品質は確かに高いかもしれませんが,残念ながら私が思うような好録音ではありませんでした。これが優秀録音の受賞ディスクであるという事実に少なからず落胆しております。

オーディオ品質が高いことは認めますが,ホール音響を優先するあまりピアノの音が曇ってしまっています。ピアノ本来の音の輝き,透明さ,ニュアンスが,ホール音響再現の犠牲となって失われてしまっています。完璧に商品化された音であり,演奏者の存在が希薄で身近に感じられません。

ぜひグールドのゴルトベルク変奏曲(1981年録音)や平均律クラヴィーア曲集(1962~1971年録音)と聴き比べてみていただきたい。およそ30年から50年以上も前の古い録音なのでオーディオ品質はもちろん劣ります。しかし,一つ一つの音がクリアで輝いていますし,豊かなニュアンスも十分に感じ取ることができ,演奏者の呼吸も伝わってくる生き生きした音です。

なぜクラシックの録音はこうも楽器本来の美しい音を曇らせようと一所懸命がんばるのか,私には良く理解できないところです。残響の有無が音楽の芸術性にほとんど関係ないということはグールドのディスクで証明済みです。こんなに素晴らしい手本があるのにそれに倣おうとする録音が出てこないのが不思議でなりません。

楽器の持つ本来の美しい音,輝きのある音,ニュアンス豊かな音をありのまま捉えることが最優先ではないのでしょうか。そして,それを維持しながらいかにうまく雰囲気を織り込めるかが次にくると思うのです。この録音はホール音響再現が優先されすぎて本来の美しさが犠牲になっていると思います。オーディオ雑誌ならまだしも音楽雑誌がこういう録音を時代の最先端をいく優秀録音として選んでいるところに失望します。演奏自体は大変素晴らしいと思うので余計にこの録音を悔しく思います。



どういう録音が良いのか,その目指すべきゴールはそれぞれの人の価値観にもよりますので,この録音を優秀録音として評価する方がいてももちろんおかしなことではありません。むしろ,私のように思う人の方が少数派なのでしょう。

しかし,今のクラシック録音はその多様な価値観に基づいた様々な録音が出ているかというと,現状はホール音響再現重視の録音に偏りすぎていると思います。

我々一般人が生の音楽に触れる機会はホールで行われるコンサートという場がほとんどです。このブログでは何度も述べてきたことですが,だからといって音楽を聴く環境としてホールで行われるコンサートがベストかというと,必ずしもそうではないと思うのです。

音楽はもっと身近であっても良いものであり,生の演奏をホールよりもずっと良い音で楽しめる環境はいくらでもあるわけで,そんなベストとは限らないホールの音響をなんでわざわざ自宅で再現しなければならないのか,なんでそんな音響を押しつけられなければならないのか,と,思うわけです。

ホールの音響を家庭で再現するというのも確かに一つの考え方ですが,ホールでも得られないようなもっと素晴らしい音楽体験を目指した録音があっても良いのではないでしょうか(決して奇抜なことをやって欲しいと言っているわけではありません,念のため)。

このホール音響一辺倒のクラシック録音を見直して欲しいという思いで,演奏者の小菅さんにはちょっと悪いなと思いつつ,年間の最優秀に選ばれた録音ということで,あえて少し大げさに辛口でコメントさせていただきました。(といっても私の影響力など微塵もないので,何にも変わらないのだろうな...今までも何にも変わってこなかったし...)

■ この記事へのコメント

zyx
こんにちは。わたしも残響過多は好まず、EMIなどの録音は超苦手です。しかし残響の豊かさについて強い信念を持って録音しているのかもしれませんので、その考え・思いをぜひ一度聞いてみたいと思っています。
2014.01.05 at 01:10 #hkqB13jU URL [Edit]
T.S.
こんにちは。コメント有り難うございます。

このディスクは残響過多というわけではないのですが,それでも残響の影響はあります。もちろん録音された方の理想を追求した結果であることは理解するのですが,そうであっても不満に思う人間がいるということ,録音の目指す方向はこれが唯一無二ではないということを訴えたかった,ということでご理解をいただきたく思います。
2014.01.05 at 13:26 #- URL [Edit]
こんばんは。

人により好みが色々ですが、私が試聴した限りでは”そんない良いかな?”と思うピアノの音でした。

演奏自体の好みは棚上げにして、ピアノが良く鳴っていると最近感じたのは、以下のものです。良かったら視聴してみてください。

https://itun.es/jp/2tkqx
2015.07.21 at 21:24 #- URL [Edit]
T.S.
コメントありがとうございます。返事が遅れ失礼しました。

私も記事でコメントした通りこの録音には疑問を持っています。

ご紹介いただいた録音をApple Musicでさわりだけ聴いてみました。第一印象は良かったです。もう少し聴いて再度コメントしますね。
2015.07.22 at 22:16 #- URL [Edit]
T.S.
ご紹介いただいたディスクの記事を掲載しましたので,よろしければご覧ください。有り難うございました。
http://dominant7th.blog83.fc2.com/blog-entry-1059.html
2015.07.24 at 18:47 #- URL [Edit]
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2015.08.28 at 17:51 # [Edit]
T.S.
ものすごく遅い反応で失礼します。コメント有り難うございました。興味深く拝見しました。今後ともよろしくお願いします。
2015.09.09 at 08:24 #- URL [Edit]

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