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ノイズキャンセリングヘッドホンの性能測定を試みる

ノイズキャンセリング機能を持ったヘッドホンが市場で増えつつあるので,一度その性能を測定してみようと思いチャレンジしてみました。ノイズキャンセリングヘッドホンの測定方法は,JEITA(一般社団法人 電子情報技術産業協会)の規格「RC-8142 ノイズキャンセル型ヘッドホン及びイヤホン」でその測定方法が規定されています(→JEITA規格書のページ)。

本文は無料で公開されているので閲覧してみたところ,環境騒音模擬ノイズを使うとか,そのノイズを充満させた拡散音場で測定するとか,HATS(ダミーヘッド)を使うとか,94dBのノイズ(これはほとんど爆音)を発生させて測定するとか,・・・ とても素人には規格通りに測定出来そうにありませんでした。とはいえ,まあ規格通りということにこだわらなければ簡易的な方法でも出来そうだと思ったので,やってみることにしました。

まず音源ですが,これはまあピンクノイズで良いでしょう。最近の製品では周囲ノイズの特性に応じてキャンセル特性を自動的に変えるようなものもあるようなので適切かどうかは微妙ですが,ノイズには違いないのでとりあえず良しとします。

次にノイズを充満させた拡散音場ですが,これが一番困りました。自宅でピンクノイズの爆音を鳴らそうものなら家族はおろか近所迷惑にもなるので爆音を鳴らせる環境を探さなければなりません。カラオケボックスなども考えたのですが,追い出されるリスクが高くこれもだめ。で,結局,車の中でカーオーディオでピンクノイズを鳴らし,測定することにしました。車の外に盛大に音が漏れるのでやはり場所選びに苦労しましたが,周囲が静かでかつ人通りが少なく怪しまれにくい場所を見つけました。

そしてHATSですが,車の中ではいつも使っているファンタム電源が必要なマイクを内蔵した測定治具が使えないので,プラグインパワーのマイクを内蔵した治具を作って測定しました。下の写真がその治具です。のりパネというスチロールボードと発泡スチロールのブロックを使って本体を構成しています。マイクはPanasonic WM-62CUというコンデンサマイクです(部品で1個100円程度)。これをオーディオI/Fのマイク入力に接続します。恐ろしいほど稚拙な治具で誠にお恥ずかしいのすが,一応これでも機能します(^^;。

mic_fixture_for_nc_measurement.jpg


今回試しに測定したBOSEのQuietComfort 35を取り付けると次の写真のようになります。これを車に持ち込みました。

mic_fixture_with_bose_qc35.jpg


マイクで拾ったノイズ信号はオーディオI/FでA/D変換してPCに取り込み,ARTA SoftwareのARTAという測定ソフトのスペクトラム分析機能を用いました。これで1/3オクターブバンドのスペクトラム分析をします。ノイズはカーオーディオでピンクノイズを鳴らします。デジタルで-3dBのピンクノイズをCDに焼き再生,音量を最大にして騒音計で約92dBの音圧のノイズが得られました。爆音です(^^;。

測定手順は次の通りです。

(1) ノイズを止めた状態で,ヘッドホンを装着せず測定(ノイズフロアを確認)
(2) ノイズ発生を発生させ,ヘッドホンを装着せず測定(ノイズ量を測定)
(3) ヘッドホン装着を装着し,ノイズキャンセリング機能オフで測定(遮音性能を測定)
(4) さらにノイズキャンセリング機能をオンにして測定(アクティブキャンセル性能を測定)

得られたデータから,(3)-(2)で遮音性能を,(4)-(3)でアクティブキャンセル性能を,(4)-(2)でトータルのノイズキャンセル性能を,それぞれ算出してグラフ表示します。

この方法で試しに測定したBOSEのQuietComfort 35の結果を次に示します。左チャンネル,右チャンネルそれぞれ測定しています。各グラフの上半分が測定した音圧値,下半分が性能を評価した結果です。

bose_quietcomfort35_nc_performance_lch.png


bose_quietcomfort35_nc_performance_rch.png


興味深いのは,およそ700Hz以上はほとんど遮音性能で決まり,200Hz以下の遮音性はほとんどないこと,そしてアクティブキャンセルは,およそ700Hz以下しか効かず,1kHzから2kHzあたりは逆にノイズを増やしてしまっているということです(増えた分は遮音でカバー)。トータルとしては遮音とアクティブがうまくクロスして効果を出し,全帯域で15~30dBの低減効果が得られています。

アクティブで1~2kHzがかえって悪化しているのは,このあたりの周波数が性能的な限界で,位相のコントロールが出来ていないためではないかと推測します。遮音で低域のノイズがかえって増えているのは,高音圧のノイズでヘッドホンと治具が揺さぶられ,タッチノイズのようなノイズが発生しているためのようです。

またこの測定治具ですが,加工のしやすさを優先して軽い素材を用いたのですが,治具自体がノイズ音圧で振動し,その振動がマイクを直接伝わって結果を悪化させている可能性があると考えています。ただ,このような貧弱な治具でもそれなりにノイズ低減効果を数値として確認できたので,まあ一定の成果はあったと思っています。治具の防振対策は今後の課題です(まだやるつもりなんかい!(^^;)。

最後に蛇足ですが... 私の車のカーオーディオの周波数特性ってだいたいこんな感じだったんですねぇ... というのもわかりました。

関連ページ: ヘッドホン BOSE QuietComfort 35 周波数特性

タグ: [ヘッドホン] 

■ この記事へのコメント

1kHzから2kHzあたりのブーストは電車の中で周囲の会話がよく聞こえるようになる事と一致しますので「性能的な限界」では無いと思えます。勝手な想像ですがパイロット向けの製品のグレード落ちが、この製品なんじゃないでしょうか。
2021.05.21 at 17:11 #9NYOmtzQ URL [Edit]
𝕥𝕤𝕪𝟚𝟚𝟟 (@tsy227)
コメント有り難うございます。反応が遅れ失礼しました。

アクティブNCが1kHzから2kHzで逆にブーストのようになってしまう件については,以前から考えは変わっていません。マイクで拾った音を逆位相で再生することでキャンセルするアクティブNCでは,波長が短くなる高域では処理の時間遅れで位相余裕がなくなるため効果がなくなる中高域ではキャンセルする音を止めなければなりませんが,そのフィルタのスロープにかかる帯域ではどうしても悪影響が残ってしまいます。パイロット向けの製品の性能は存じませんが,民生用デバイスの限界ではないでしょうか。

音声の帯域にもノイズ成分はありますから,その帯域をブーストすればその帯域のノイズも増えてしまいます。ノイズキャンセリングの本来の性能を犠牲にしてまでその帯域をブーストすることは製品の設計としてもやらないと思っています。
2021.05.24 at 11:25 #- URL [Edit]

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