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好録音について考える(3) ~ 残響のカクテルパーティー効果

カクテルパーティー効果という用語をお聞きになったことがあろうかと思います。これは,パーティーのような騒がしい環境でも話し相手のしゃべっている内容がちゃんと聞き取れることを指しています。人間は周囲の騒音をフィルタリングして話し相手の声を取り出す能力を備えています。

しかし,例えばICレコーダで録音した音声を聞き直すと,その場で聞き取れたはずの相手の声が周囲の騒音に紛れて非常に聞きにくいといった経験はないでしょうか。これは,録音という行為によって,カクテルパーティー効果に必要となるその場の音響的情報がごっそりと削ぎ落とされてしまうためだと推察します。

私はこれが音楽における残響にも当てはまるのではないかと考えています。

音源から放射された音はあらゆる方向に放出され,壁面反射によって複雑で膨大な情報を持った音場空間を作り出します。その中にいる聴衆には,音源からダイレクトに届く直接音の他に,あらゆる方向からそれぞれ異なるタイミングで残響が届きます。聴衆は残響ではなく音楽そのものに注意を向けますから,残響を含む音の中から音楽だけを選んで聴き取ります。それは,カクテルパーティー効果に必要なその場の膨大な音響的情報があるから可能になります。

一方録音された音楽を聴く場合,メディアに収められる段階で,音楽と残響は一つの信号に混ぜられてしまいます。そしてそれを再生すると,聴取者には音楽も残響も等しくスピーカからの直接音という形で耳に届きます。聴取者はステレオ再生の両耳効果による心理作用(錯覚)によって仮想的に空間性を感じようとします。しかし,そこには録音現場にあった膨大な音響的情報はもはやなく,従ってカクテルパーティー効果は働きませんから,いくら音楽に注意を払っても残響を分離して音楽のみを聴き取ることはできません。

響きのよいコンサートホールでは音楽を楽しめるのに,それを録音したものは残響が鬱陶しくヌケの悪い冴えない音に感じてしまうのは,これが原因ではないかと推測します。

結局のところ,残響というものが形成する音場空間そのものが情報なのであって,そこから切り出した「残響音」自体には何の情報もないのではないかと思うのです。

最近発売されるSACDは大抵5.1chのサラウンド対応となっていますが,これはリアルな音場空間を再現しようとするアプローチであり,方向性としては正しいと思います。

■参考url: TOA株式会社 - 音が聞こえるってどういうこと?
http://www.toa.co.jp/otokukan/otomame/1-1.htm

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