協奏曲録音の難しさを考える ~ ヒラリー・ハーンのチャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲を聴いて

先日レビューしたヒラリー・ハーンが弾くチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の録音について,「ダイナミックレンジが広すぎることと,ソロの音量が小さめで聴きづらく,これを好録音とは言いたくありません。」と書き,★★★の評価としました。このエントリでは,このことについて少し触れたいと思います。

以前レビューした同じくヒラリー・ハーンの弾くシベリウスのヴァイオリン協奏曲の録音については,「ソロにフォーカスしてヴァイオリンの音を明瞭に捉え,バランスとして若干オーケストラよりも大きめに取っているため,違和感を感じる方もおられるかもしれませんが,私としてはソロがキッチリ聴こえるため,私としては歓迎です。」と書き,★★★★☆の評価としていました。

この二つは何が違うのか,簡単に比較してみたいと思います。それぞれの協奏曲の第一楽章の音声波形を示します。上段がチャイコフスキーの第一楽章,下段がシベリウスの第一楽章です。また,比較しやすいように,ヴァイオリンだけとなるそれぞれのカデンツァの部分をマーカーで区切って示しました。

hahn_tchaikovsky_sibelius_violin_concerto.jpg (クリックで拡大表示)

このカデンツァの部分を見ると,明らかにチャイコフスキーの方が音が小さいです。シベリウスと比較しておよそ-6~-12dB(波形レベルで1/2~1/4)。有効ビット長に換算すると1~2ビット少なくなるということになります。絶対レベルで見みると-24~-30dB程度になりますので,ヴァイオリンの音だけを考えると12ビット録音相当です。

以上からこのチャイコフスキーの録音の問題は,(1)肝心のヴァイオリンソロの音に使っているビット数が12ビット録音相当とかなり少ない,(2)オーケストラの音量に対して相対的に小さい,の2点だと思っています。

私の場合,使っているオーディオ装置も聴取環境もそれほど良くありませんので,ヴァイオリンの音をしっかり聴くためには少し音量を大きくしなければなりませんし,そうすると逆にオーケストラの最大音量の部分ではうるさすぎて音量を下げなければなりません。こんなことをしなければならないとは一体何をしていることやら。仮に本来のダイナミックレンジをきちんと反映していたとしても,これでは台無しです。

その点シベリウスの方は若干ソロにフォーカスされていますので,ソロもきちんと聴き取れますし,オーケストラもうるさくなりすぎず,現実の音量バランスとは異なるかもしれませんが,結果としては快適に鑑賞できるのです。ソロに対しても少なくともチャイコフスキーの録音よりはビット数を多く使って録音されていますから,よりよい音で聴けますし。

協奏曲の録音は,いかにソロの音量を確保してオーディオクオリティを上げるか,さらに,いかにオーケストラとのバランスにおいて違和感のないぎりぎりの線を狙えるかが成否のポイントになると思います。そういうことをもっと意識して録音してくれることを希望します。

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